これまで見てきたように、今後は人間にしか出来ない仕事だけが残る。そして、人間にしか出来ない仕事を探すことは、今後どんどん難しくなるだろう。
10年前は、リンゴにいろいろな形があり、それをAIに判断させることは不可能だとされていた。赤いリンゴ、やや黄色いリンゴ、歪な形をしたリンゴなどなど、曖昧さを理解することはできない、というわけだ。でも、今やiPhoneは、そんなものより遥かに難解な人間の顔の判別を正確に行い、あなたが誰かと一緒に写っている写真を頼んでもいないのにチョイスして、親切にもあなたを懐かしい気持ちにさせてくれる。
ふと思い立って写真を見る、ということさえ、AIはあなたの代わりにやってくれる。
技術の進歩は世界を変える。
そんな当たり前のことが、目の前で起こっていると理解できない。
自動車が普及し始めた時代、日本ではまだ馬車が普通に走っていて、馬屋の仕事はこの先も永遠に続くと誰もがおもっていただろう。だが今や、馬を育てることは競馬か食肉用しか需要がない。同じ様に、人間が運転する自動車は、将来的には競技用車両しか残らないだろう。
そんな馬鹿なと思うだろうか?
100年前の人も、乗馬技術は今後もずっと人間にとって重要な技術で、馬のいない世界など考えられないと思っていただろう。だがそれは考えられないだけだ。その時が来れば、時代は否応なくやってくる。
とは言え、技術発展を正確に予測することは難しい。もう21世紀だが、アトムはまだいないようだし、スペースコロニーを建造したという話も聞かない。だがe-mailで誰とでも瞬時に連絡が取れるようになり、wifiがあればLineやWhatsappで世界中の誰とでも無料で通話できるし、オンライン会議だってストレスなくスムーズにできるようになった。
若い世代はもうCDなど知らないし、そもそもラジカセを知らない。自動車のバカでかいオーディオトラックに数十枚のCDを突っ込んで、なんて便利なんだろうと思っていた時代を知らない。
気になるあの子に電話する時に父親の詮索を突破する必要はないし、プレゼントを買うのに街にでかけていく必要もない。
学生が調べものをするのに図書館が開くまで待っている必要はもはやないし、就職するために何枚もの履歴書を手書きで書いて、就職説明会に持っていくことなんて考えられない。
でもたった20年前まで、これらの不便さは当たり前だった。そして誰もが、こういう生活がずっと続くと思っていた。何故か?それはインターネット以前の変化のスピードが非常に緩やかだったからだ。
私の祖父は、私が生まれ育った街で初めて車検場を作った人だった。祖父は1930年代の生まれなので、1951年に車検が義務付けられた事をビジネスチャンスに思ったのだろう。軽自動車を含むすべての車両の車検が義務付けられたのは1971年だ。自動車の普及には物凄い時間がかかっている。しかし今後10年ほどで、世界中の新規発売車は電動化するという。
変化のスピードが凄まじすぎる。
このスピード感が重要だ。
建設業界だけが聖域でいられるわけではない。たしかにこの30年間、建設業界に目立った大きな変化は安全面以外ではなかった。
だがこれからは変わる。変わっていかざるを得ない。
話を戻そう。
人間にしか出来ない仕事、は以下の2つに分類可能だ。
①ロボットにやらせるにはコストがかかりすぎる仕事
②人間の発想や判断が必要な仕事
①はわかりやすいと思う。
工事現場で言えば、詰め所の清掃やちょっとした荷物の運搬、玉掛け・鉄板吊りのフックの取り付け、工事看板の設置、規制帯の設置などは、ロボットにはやらせるにはコストがかかりすぎるだろう。こうした仕事は今後も人間の仕事であり続けるだろう。人間にやらせた方がやすいという理由で。
②こそが、重要だ。
これこそが本連載のテーマたるシン・ドカタだ。
人間の発想や判断が必要な仕事とはなんだろう?
具体的には、以下の仕事が考えられる。
1.工事計画・工程表の検討、作成
複数のロボットと遠隔操作重機、そして少数の人間が存在する工事現場に置いて、工程管理は非常に重要な仕事となるだろう。
現場ごとに状況が違うとしても、現場監督には工場長のような、整然としたシステマティックな工程管理が求められる。ロボットや遠隔操作重機には作業のムラがないので、稼働していない時間の不経済性がモロに反映される。
そして、人間と違い、ロボットや遠隔操作重機には作業のムラがないということは、そういった人間のムラっけを調整するような監督の仕事はなくなると考えられる。「あの人の現場ならやってもいい」というような、この業界でよくある特殊な風習はなくなるだろう。
2.データの取得、施工図への反映、重機のセッティング
GBSS測量やドローン技術を使用してデータを取得し、施工図に反映させて重機にセッティングし、校正していく作業は、現場でもっとも重要な作業となるに違いない。この作業の正確さが、そのまま現場の仕上がりの良し悪しとなるだろう。
3.クライアントへの説明、提示
より高度化された現場においては、丁張りや墨出しが存在しないため、人間にとっては可視化されていない。専門知識を持つあなたは、図面を解釈し、日々更新される重機からの情報で現場を把握できているが、そうではないクライアントには何が起きているのかわからないだろう。
しかし、あなたにはクライアントの承認が不可欠だ。現場監督には、それらをクライアントに説明し、変更点をわかりやすく解説し、時にはAR技術を用いて可視化することが求められるだろう。
今後のクライアント対応は、人柄と言うより、如何に現場の状況をわかりやすく伝えられるかということが重要になってくる。
4.AIの教育
現場は千差万別で同じ現場は一つとして存在しない。だが、AIに対して根気よくデータを与え、成長させていくことは、あなたの大事な仕事になるだろう。AI同士はオンライン上で情報を交換しあい、どんどん成長していくに違いない。
AIは現場監督の最良のパートナーで有り続けるだろう。
いずれAIがすべての学習を終え、現場監督を必要としなくなるまでは。
シン・ドカタ 終
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