インボイス制度と電帳法が変革する建設業 ②求められる企業規模

 2023年10月1日より、インボイス制度が導入されることが決まっています。これは、2019年に消費税に軽減税率を導入した際に制度的に避けられなかったシステム上の帰結です。

軽減税率がより細かく導入されている欧州などではすでに一般的です。そもそもインボイス(Invoice)とは英語で請求書という意味でビジネスで日常的に使われますが、もともとは貨物の荷札のような意味だったようです。

貨物は国境を超えるときに課税されるので、品目や数量等の明細が必要になり、それぞれの税率で課税されます。

同じように、軽減税率を導入した日本では、品目に応じた課税がなされますので、インボイス付き領収書がなければ、制度自体が成り立たないのです。

一方で、これまでは売上高1000万円未満の事業者は免税事業者となっていました。これは、制度設計上、すべての免税事業者から税徴収を行うシステム費用の方が、税収よりも高額であったためと考えられます。しかし今回、インボイス制度が導入されたため、コストにかかわらずシステムが存在するため、免税事業者に課税しない理由がなくなりました。

今後はすべての請求書は「適格請求書」であることが求められます。適格請求書とは、政府の定義によれば、『「区分記載請求書」に「インボイス制度の登録番号」「適用税率」「税率ごとに区分した消費税等の額」を追加した請求書』を指すそうです。

このインボイス制度の登録番号というのが、適格請求書発行事業者の登録番号であり、つまり課税事業者の証明となります。

制度上、非課税事業者とも取引をすることは可能ですが、その場合、非課税事業者に支払った消費税額は、控除することができません。

消費税は、多重課税を防ぐため、預かった消費税から、支払った消費税を差し引いて納付することになっています。

つまり、A社が、非課税事業者のB社と税抜き1000万円の取引を行った場合、A社は1100万円をB社に支払います。B社はこの100万円を預かり消費税として納税義務を負いますが、C社から500万円のものを購入し、50万円の消費税を支払っている場合、B社が納入する消費税金額は、100万円ー50万円で、50万円となります。

もし、このC社が非課税事業者であるか、適格請求書をBに対して発行しない場合、Bは丸々100万円を納付しなくてはいけません。

そのため、原理的にはすべての事業者が課税事業者登録を行うことになります。


テレビや新聞などで取り上げられるのは、これは弱い者いじめではないか、という指摘です。もちろん、消費者が支払っていた消費税が適切に納付されていなかったわけですから、これまでの制度がある意味おかしかったわけですが、ここに課税することが本当に税収増に寄与するのか、という指摘としては正しいと思います。

前回参照した内閣府の数字では、完成工事高が1000万円未満の企業の売り上げは620億円しかありません。10%として62億円ですから、建設業全体の消費税金額9.4兆円と比較すると誤差の範囲という印象です。

ですので、今回のインボイス制度の本丸は、実は免税事業者への納税圧力ではないと思っています。

おそらく、政府の狙いは企業規模の拡張への圧力です。

本制度においては、すべての請求書が適格請求書でなくてはなりません。適格請求書を発行し、適格請求書を受け取り、適格請求書を根拠として納税するわけです。この事務負担は、正直言ってかなりものです。

加えて、電子帳簿保存法がスタートします。すべての証憑(伝票、領収書、レシートなど金銭の受領を証する書類)は電子的に保存されることが義務付けられます。そのためには、改ざん不可能な形で適切に電子的に保存される必要があり、この事務コストも膨大です。

しかしながら、従業員4名の小規模事業者100社にとっては大きな事務コストも、400人の大規模事業者にとってはそう大きなコストではありません。

電子化のメリットは、拡張性です。

紙で保管するわけではないので、1人の事務能力で管理できる量が多くなります。紙で保管する場合、営業Aにある書類を本社の人が管理するのは容易ではありませんが、すべてが電子化されてクラウド上にあれば、その管理は場所を問わないことになります。

つまり、会社規模が大きいほどこの制度変更はインパクトが小さく、反対に小さい会社にはまさに存亡の危機というべき変革が必要になってくるということです。

では具体的にはどういうことが起きるのか。それを次回は見ていきたいと思います。

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