カーボンニュートラルを巡る政争
我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。(第203回国会における菅総理の所信表明演説より抜粋)
前内閣が発足したとき、菅首相は脱炭素社会の実現を強く強調しました。菅宣言は一見すると素晴らしい内容です。これまで石炭火力をなんだかんだ温存してきた日本政府の姿勢が180度変わったような格好です。
しかしこの発言に反発した人がいました。国内最大の産業の雄、トヨタ自動車社長であり、自動車工業会会長である、豊田章夫氏です。
カーボンニュートラル2050と言われるんですが、これは国家のエネルギー政策の大変化なしにはなかなか達成は難しいということをぜひともご理解いただきたいと思います。
例えば日本では火力発電が約77%、再エネ(再生エネルギー)とか原子力が23%の国であります。片やドイツとかフランスは、この火力発電が例えばドイツですと6割弱、再エネと原子炉47%、フランスは原子力中心になりますが、89%が再エネ&原子力で、何と火力は11%ぐらいです。
ですから、大きな電気を作っている事情を絡めて考えますと、例えば当社の例になってしまいますが、「ヤリス」というクルマを東北で作ってるのと、フランス工場で作るのは同じクルマだとしても、カーボンニュートラルで考えますと、フランスで作っているクルマの方がよいクルマってことになります。
そうしますと、日本ではこのクルマは作れないということになってしまう。
(自工会記者会見の豊田章夫会長の発言より)
豊田氏は、どれだけ産業界ががんばっても、日本の電源構成が火力発電等化石燃料に依存している以上、日本で製造した自動車が販売できなくなる可能性に言及しています。
また豊田氏は、
電動化比率はご存じのように、世界第2位の35%。1位はノルウェーの68%ですが、これは絶対台数でいきますとノルウェーの10万台に対しまして日本は150万台です。作っている工場自体も、工場のCO2排出量は09年度の990万tから、18年度は631万tと36%削減をしております。
これを聞いてあれ?と思った方もいるのではないでしょうか?日本の電動化比率が35%で世界2位?確か電気自動車の普及率は2%くらいで世界に大きく遅れているからでは?
実はここに世界的な誤解があり、自動車の電動化は、自動車業界では=EVではありません。日経新聞によれば、電動車の定義とは、
バッテリーに蓄えた電気エネルギーを動力にした自動車。電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)、ハイブリッド車(HV)などが該当する。ガソリンだけを動力とするガソリン車より二酸化炭素排出量が少なく、環境への負荷が小さい。
となっており、現実世界の発電方式がかなりの割合化石燃料に依存している現状を考えると、EVよりもHVの方が環境負荷が低いという場合もあります。
そのため、各国の自動車を巡るカーボンニュートラルへの取り組みも、微妙に内容が違ってきます。
再エネ比率が比較的低い、日本、中国、米国などは、電動車全体の普及を掲げている一方、欧州や、北米でもカリフォルニア等では、将来的にEVのみの普及を目標とし、ハイブリッド車等も販売規制対象となる予定です。
これは、トヨタと北米、欧州の自動車会社との政争の一面もあり、長く環境車の販売で世界をリードしてきたトヨタとしては、忸怩たる思いがあるでしょう。
世界のカーボンニュートラル
それでは豊田氏が懸念する日本のカーボンニュートラルへの取り組みは、世界と比較してどうなのでしょうか?
次の資料は経済産業省のWGの資料から抜粋したものです。
日本のカーボンニュートラル宣言は欧州を意識したものだと言われます。米中はCO2の2大排出国ですからこの2国が動かなければどうにもならないのですが、これまで温暖化は先進国の責任としてきた中国が、にわかに脱炭素に舵を切りました。パリ協定から離脱したアメリカを意識してのものだと言われています。しかしながらアメリカも政権が代わりパリ協定への復帰を示唆。
世界は各国がカーボンニュートラルの覇権を狙う、新たな国際間競争に突入したと言えます。
六本木オフィスからは以上です。
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